Vol.009 ドラッグデリバリーシステム材料の動的解析

出典:Imamura M., Uchihashi T., Ando T., Leifert A., Simon U.,  Malay A.D. and Heddle A.D. 
Probing Structural Dynamics of an Artificial Protein Cage Using High-Speed Atomic Force Microscopy Nano Lett. 2015

要旨

ドラッグデリバリーシステム(DDS)とは、薬剤を搭載したナノマシンが生体内の患部まで薬剤を輸送する技術である。

DDSは体内での医薬品の分布や量を制御し副作用を最小限に抑えることが可能であるため、がん治療などの次世代の医療技術として期待されている。
DDSに用いられるナノマシンの素材は、自発的に構造形成する性質(自己集合能)を持つ物質が望ましいが、その中にTRAPと呼ばれる人工タンパク質がある。
TRAPは直径1.4nmの金ナノ粒子の存在下で集合し、網カゴ状のTRAPケージを自発的に形成する。
このTRAPケージはDDS材料として大きく期待されているが、その構造や形成機序については不明な点が多かった。

そこで本研究では高速AFMを用いて、TRAPケージの集合過程と分解過程の詳細を解析した。

Keyword: TRAPの分子モデル

TRAPはリング状構造を持つtrp-RNA結合タンパク質のうち、35番目のリシン残基をシステイン残基に置換した人工タンパク質である。
ジスルフィド結合により、網カゴ状の超分子であるTRAPケージを自発的に形成する。

観察結果

まず、高速AFMで単独のTRAP分子の観察を行った。
観察溶液に直径1.4nmの金ナノ粒子を添加すると、基板上に分散した異なるTRAP分子同士が、端と端で結合していく様子が観察された。
さらに、TRAPケージを脱凝集させることが知られている薬剤のDTTを添加すると、TRAP分子はバラバラな状態に戻った。
このように、TRAP分子同士の結合が一分子レベルで観察された。

次に、高速AFMでTRAPケージの観察を行った。高速AFM上でTRAPケージは、ウイルスの殻のような、表面に孔を持つ角ばった球体として観察された。
さらにDTTの添加により、TRAPケージが数分で展開する様子も確認された。

以上のような、高速AFMによる一分子レベルでのケージの構造変化観察は、今後DDSに向けたナノマシンの開発に大きく貢献すると期待される。

高速AFM観察画像

 

試験管内で再構成したTRAPケージの経時観察画像

DTTを添加するとケージの構造変化が起き、分解される。

 

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出典論文

Imamura M, Uchihashi T, Ando T, Leifert A, Simon U, Malay AD, Heddle JG. 
Probing structural dynamics of an artificial protein cage using high-speed atomic force microscopy. Nano Lett. 2015 Feb 11;15(2):1331-5. doi: 10.1021/nl5045617.
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/nl5045617

使用機種

サンプルスキャン型高速原子間力顕微鏡 SS-NEX

高速AFMのご紹介

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