出典:Sugasawa H, Sugiyama Y, Morii T and Okada T.
Dynamic Observation of 2686 bp DNA–BAL 31 Nuclease Interaction with Single Molecule Level Using High-Speed Atomic Force Microscopy Jpn. J. Appl. Phys 2008
要旨
DNAを分解する酵素であるヌクレアーゼは、遺伝子を人工的に扱う「遺伝子工学」という学問分野において、重要な役割を果たしてきた。
しかし、ヌクレアーゼはその反応系の小ささから一分子レベルの消化機構は殆ど研究されていなかった。
そこで、本研究では高速AFMを用いて、ヌクレアーゼの一種であるBAL31がDNAを消化する様子の直接観察を行った。
Keyword: エキソヌクレアーゼBAL31
BAL31は二本鎖DNAの末端を分解し、内部配列は切断しないエキソヌクレアーゼである。
自然界において、ヌクレアーゼは原核生物の免疫機構として存在し、外来から侵入したウイルスDNAを分解し、自己のDNAを守る機能を持つ。
ヌクレアーゼが持つ機能を上手く転用することで、遺伝子編集の技術がいくつも誕生した。
観察結果
環状DNAと直鎖状DNAを混合し、BAL31と反応させた。
BAL31が直鎖状DNAの末端に結合し、経過時間と共に末端が削られていく様子が高速AFMで観察された。
BAL31は末端からDNAを分解するため、末端がない環状DNAは数分が経過しても消化が全く進行しなかった。
さらに高速AFMで得られた像を解析し、DNA末端に結合したBAL31が23 nm/100 msで進むという結果を得た。
この結果はBAL31が1秒あたり78 bpのDNAを消化できることを示している。
このように、高速AFMを用いれば、酵素反応の一分子レベルでの解析(消化速度等)が可能になることが示された。
高速AFM観察画像
高速AFMによるBAL31消化反応の経時観察像
ひも状に見えるものがDNA、DNA上に点のように見えるものがBAL31である。
BAL31がDNAと結合し、末端を探して分解する過程が示された。
一方、末端が存在しない環状DNAはBAL31が結合することができないため、
酵素反応下でも分解されずに存在し続ける。
HS-AFMによるBAL 31消化反応の経時観察像(150倍速)
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出典論文
Sugasawa H, Sugiyama Y, Morii T and Okada T.
Dynamic Observation of 2686 bp DNA–BAL 31 Nuclease Interaction with Single Molecule Level Using High-Speed Atomic Force Microscopy Jpn. J. Appl. Phys 2008
https://iopscience.iop.org/article/10.1143/JJAP.47.6168