Revealing circadian mechanisms of integration and resilience by visualizing clock proteins working in real time Nat. Commun. 2018
要旨
概日リズムとは生物が持つ約24時間周期の体内時計である。
遺伝子発現や代謝、細胞分裂などの生体内反応はこの概日リズムによって調節されている。
時計タンパク質KaiA、KaiB、KaiC間で起こるリン酸化フィードバック反応が概日リズムを司る。
Kaiタンパク質のフィードバックは並外れた正確性と頑強性を持つが、その達成には、KaiCのリン酸化状態によりKaiAとの相互作用が変動する、PDDA(Phase Dependent Differential Affinity)効果が大きく寄与しているという有力な仮説がある。
しかし、時計タンパク質同士の相互作用を一分子のレベルで解析することは困難であったため、この仮説の実験的な裏付けは得られていなかった。
本研究では、高速AFMを用いてKaiタンパク質同士の結合/乖離状態をリアルタイムで解析し、PDDA効果がフィードバックの頑強性に寄与していることを裏付ける強い証拠を得た。
Keyword: KaiC
KaiCはCⅠリング(N末端側)とCⅡリング(C末端側)が重なった構造を持つ。
CⅡリングには触手のような領域が存在し、その部分にKaiAが結合する。CⅡには2ヶ所のリン酸化を受ける部位が存在する。
Kaiタンパク質の名前は日本語の「回(circular)」に由来する。
観察結果
KaiAをC末端側(CⅡリング)が上側になるようにマイカ基板に固定し、観察溶液に加えたKaiCが基板上のKaiAと結合/乖離する様子を高速AFMで観察した。
その結果、KaiAとKaiCは1秒以下という極めて短い時間で結合と乖離を繰り返していることが明らかになった。
次に、リン酸化状態が異なる4種類のKaiC変異体を用いて同様の計測を行った結果、リン酸化状態によってKaiAとKaiCの結合数および結合時間が大きく異なることが明らかとなった。このデータを元にシミュレーションを行い、PDDA効果がKaiタンパク質のリン酸化フィードバックに与える影響を解析した。
その結果、PDDA効果によってKaiタンパク質のリン酸化フィードバックは、ノイズの存在下でも安定に進行することが示された。
このことは、Kaiタンパク質フィードバック反応の頑強性に、PDDA効果が寄与していることを裏付ける強い証拠であり、概日リズムの解明につながる知見が得られた。
このように、未知の生体メカニズムの解明に動画の撮れるAFMは有用である。
高速AFM観察画像
Kaiタンパク質同士の相互作用
KaiAとKaiC変異体の観察画像。
基板にKaiAが固定されており(緑矢印)、溶液中に存在するKaiC(青矢印)は自由にKai Aと結合/乖離する。
DEは脱リン酸化状態、AAはCⅡ領域の全てがリン酸化された変異体。
DEに比べて、AAは結合しているKaiCの数が多いだけでなく、結合の持続時間も長い。
高速AFMによるKaiAとKaiC(DE)の相互作用観察
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出典論文
Mori T, Sugiyama S, Byrne M, Johnson CH, Uchihashi T, Ando T.
Revealing circadian mechanisms of integration and resilience by visualizing clock proteins
working in real time. Nat Commun. 2018 Aug 14;9(1):3245.
doi: 10.1038/s41467-018-05438-4
https://www.nature.com/articles/s41467-018-05438-4