Force-induced conformational changes in PIEZO1.
要旨
PIEZO1は殆どの真核生物の細胞膜上に存在し、触覚や聴覚、平衡感覚などを感知するセンサーとして機能するチャネルタンパク質である。
PIEZO1は、周囲の細胞膜や細胞骨格繊維に力が加わったことを検知し、チャネルを開きイオンを通過させることで、力を電気信号に変換し、生体内へ伝達することができる。PIEZO1の欠乏や変異は多くの疾患を引き起こすことが知られており、その機能について詳細な理解が求められている。
しかし、細胞膜の構造は複雑であり、チャネル活性を引き起こす経路も多様であるため、力がどのように電気信号に変換されるかを構造的または定量的な観点から調べることは困難であった。
本研究では、筆者らは高速AFMを用いてPIEZO1に力を与えたときに起きる構造変化を観察し、チャネルが力を認識するメカニズムに迫っている。
Keyword: PIEZO1の構造
(a) PIEZO1の模式図
PIEZO1は、細胞膜の中に存在するチャネルタンパク質である。PIEZO1に力がかかると、チャネルが開きイオンが細胞内に流入すると考えられている。
(b)結晶構造解析されたPIEZO1
PIEZO1は、3枚の羽を持つ風車のような形の巨大なタンパク質複合体である。中心の領域がイオンを通過させるゲートである。
観察結果
高速AFMは、試料の表面を「なぞる」ことで凹凸像を得る顕微鏡であるため、観察の際には、試料表面に微量の力が加えられた状態になる。
本研究ではこの原理を応用し、高速AFMが試料表面を「なぞる」力を徐々に強めていくことで、加えた力に対するPIEZO1の構造変化を定量的に解析する手法を確立した。
解析の結果、加える力を強くして観察したときに、PIEZO1は平坦な構造に変化し、力を弱めるとPIEZO1は再び元の構造に戻る様子が観察された。
さらに、この構造変化は可逆的であることが分かった。
また、力を加えた際の変形量から、PIEZO1変形のばね定数を見積もることに成功した。
以上のように、高速AFMを用いることで、加えた力とPIEZO1の構造変化の関係を定量的に評価することができた。
高速AFM観察画像
加える力に対するPIEZO1の高さ像
破線で囲った構造体は1個のPIEZO1を示す。
カラースケールは、白に近いほど相対的に高く、紫に近いほど相対的に低い。
力を加えると、PIEZO1は平たくなる(低く、かつ平面方向に広がる)。
加える力を小さくすると、PIEZO1の形状はもとに戻る。
加える力を変化させた際のPIEZO1の形状変化
カラースケールは、白に近いほど相対的に高く、紫に近いほど相対的に低い。
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出典論文
Lin YC, Guo YR, Miyagi A, Levring J, MacKinnon R, Scheuring S.
Force-induced conformational changes in PIEZO1.
Nature, 2019;573(7773):230-234. doi:10.1038/s41586-019-1499-2
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1499-2